I酒食和楽通信


ソーラー発電と鉄筋コンクリートの蔵
衛生・温度管理の行き届いた京都最古の蔵元

松井酒造株式会社 鴨川蔵

【寄稿】松井 成樹(松井酒造株式会社 専務取締役)


1 ごあいさつ
 松井酒造株式会社の松井と申します。今回、良縁を頂きまして、松井酒造株式会社鴨川蔵について簡単なエッセイを寄稿させて頂くことになりました。
 松井酒造は京都市左京区吉田にございます。蔵の近くには鴨川が流れ、大文字山を望みます。また、京都御所や京都大学、吉田神社、下鴨神社、平安神宮が近くに在り、観光コースの中の酒蔵として、国内のみならず海外のお客様にもお越し頂いております。蔵の見学も承りますので、京都のご観光の際には、是非お立ち寄り下さい。




2 沿革
 松井酒造は享保11(1726)の創業です。創業当時は兵庫県香住で醸造しておりましたが、1800年代初頭に、京都に移り、現在に至っております。創業当時は八幡丸と天神丸という2艙の船で自家清酒を北海道まで運び、代わりに海産物を持ち帰ってきていたそうです。当代の松井八束穂(やつかほ)14代目にあたります。旧京都市内では最古の歴史をもつ酒蔵でございます。


3 蔵の特徴
@最新の設備
 私共の蔵の特徴は、非常にコンパクトであること、そして最新の設備を整えているという点にあります。はじめて鴨川蔵をご覧になるお客様は皆様、驚かれます。鴨川蔵はマンションの1階にあるからです。
 酒蔵というと、白壁造りで木桶が立ち並び、そこに蔵人が櫂を入れている、という姿を想像なさる方も多いことと思われます。







 しかし、鴨川蔵では鉄筋コンクリートの蔵の中に、温度制御が可能なステンレス製のサーマルタンクが並びます。日本酒の醸造には様々な微生物が関与します。これは、すなわち清酒醸造において温度管理と衛生管理が最も重要であるということを意味します。
 温度管理と衛生管理をしっかりとできる設備を整えることで、最高品質の清酒を醸すことが可能になります。

 もちろん、良い設備を整えているだけで良い酒ができるわけではありません。麹の破精具合や醪の醗酵状況を見るのは人の目です。優れた製造技術があってこそ、最新の設備は意味を持ってきます。鴨川蔵は経験と科学が融合した酒蔵といえるでしょう。

A太陽光発電
 また、鴨川蔵では蔵内で必要な電力を、マンション屋上に設置した太陽光パネルで発電・供給するシステムを採用しています。
 美酒は美しい自然の中にあってこそ、初めて醸されるものです。清酒醸造には清廉な水と豊かな土壌が不可欠です。環境都市・京都で、これからも酒造りを続けることができるように、との思いを込めて、太陽光発電の導入を決定しました。
 京都は悠久の歴史を誇る古都であると同時に、先端技術が生み出される進取の気風を持つ都市でもあります。そして、伝統技術と次世代のテクノロジーとの融合が松井酒造鴨川蔵のテーマです。古くて新しい鴨川蔵で、世界に通じる醸造酒・日本酒を醸すことが松井酒造の目標です。



4 酒の特徴
 松井の酒は米のうまみを活かしたものにしたいと考えております。職業柄、ワインのソムリエの方とお話をさせて頂くことがあります。そこでよく耳にするのは、ワインはコース料理のメインに進むに従って良い(高い?)ワインを合わせるが、日本酒の大吟醸は味が淡白だから前菜に合わせるしかない、ということです。
 私は吟醸酒であってもメインの料理に合わせていただけるような、香りと味とが高次元で調和した清酒を造りたいと考えています。吟醸系のお酒は通常、米を溶かさないように仕込みます。米の味は雑味として捉えられており、吟醸酒ではあまり好まれないためです。しかし、米の味は甘酸辛渋の味となって清酒中に現れます。これらの味が程良く調和したものが良い酒なのだと松井は考えています。松井の清酒は吟醸酒であっても米をしっかり溶かし、米の味を活かしています。ですから、松井の清酒は様々な料理と素晴らしい相性を見せてくれます。

 もちろん、吟醸酒以外の清酒も醪の中で米を溶かして造っておりますから、米の味が活きた清酒になっています。様々な料理との相性を考えながら日本酒を選べば、料理と酒の相乗効果を生み、新たな魅力にも気づくことができることでしょう。

5 これからに向けて
 マンションでの酒造りというのは長所にも短所にもなり得ます。お客様の中には古い蔵の風情を感じたい方もいらっしゃいます。しかし、我々は、ここ鴨川蔵を最高品質の日本酒を世界に発信する場として考えています。マンションの中にある蔵という事実を、個性として捉え、長所として伸ばしていかなくてはなりません。伝統は革新的であり続けた結果、醸成されるものだと私は考えます。そして、挑戦し続けることが松井酒造のスタイルです。
 現在、日本酒業界は必ずしも順風というわけではありません。こうした状況の中でも、松井の清酒を飲んで頂いたお客様が日本酒の魅力を知って頂き、他の蔵元様の清酒にも興味を持って頂ければ、業界全体の活性化にもつながると期待しています。
 松井酒造は心を込めて日本酒を醸しています。お酒は喜びを深め、悲しみを癒すのがその役割です。どうか無理な飲み方をなさらずに、楽しいお酒にしてください。それが醸造家達の最大の願いです。(2010514)