酒食和楽通信


<酒と食の技術と経済>

国産初の麦を使ったビール完成

金子ゴールデンがビールになった

インタビュー/榎本 高一さん(東京あおば農業協同組合 代表理事 組合長)


 ──わが国初のビール麦「金子ゴールデン」を原料としたビールが仕上がりましたね。その経緯を教えてください。
 榎本高一さん 国産初のビール麦は東京・練馬で誕生しました。(詳細はこちら@A) 明治33年、現在の東京都練馬区豊玉南の金子丑五郎翁が、六条大麦の「四国」と米国ビール麦の「ゴールデンメロン」の自然交雑したものの中から作り出し、「金子ゴールデン」と名付けました。倒れにくく、少量の肥料でも生育が良いことから、一時は関東一円で栽培され、国産ビール醸造の発展に大きく貢献しました。翁が改良した種子は、貴重な遺伝資源として「独立行政法人 農業生物資源研究所ジーンバンク」に永久保存されています。その後、醸造に時間がかかるなどの理由で使われなくなり、次第に栽培されなくなってしまったのです。

 ──苦しい時期もあったのですね。でもビールの評価は高かった。
  榎本 練馬区が生んだ翁の功績を地域文化として伝承し、都市農業の振興のため、平成15年翁を慕う農民たちが相次いで栽培を復活しました。そして平成18年、ビール麦「金子ゴールデン記念碑除幕式・式典を迎えました。会場で振舞われたビールを飲んだ参加者は、「初めに苦みが口に広がり、その後甘味が広がる」「今のビールにない、深みがある芳醇な味だ」などと好評を得ました。






 また、「是非とも継続して生産・販売すると良い」「一回で終わらせるのは勿体ない」など、継続的生産・醸造を望む声が挙がりました。これらの要望・期待に応えるために、どのように農業振興と結びつけた金子ゴールデンの生産を行えるのか、販売ベースに乗せるための生産量を確保できるか、など新たな課題を頂きました。
 「金子ゴールデン」は日本ビール文化のルーツであり、ロマンです。JA東京あおばは、この生産・醸造に多くの地域住民の力を借りて、これからの金子ゴールデンの物語を創っていこうと考えています。

──金子ゴールデン、生産の現状は。
 榎本 ご承知のように、練馬でも後継者の減少は切実な悩みです。耕作放棄地の増加、固定資産税や相続税の負担など、農地は確実に減少の方向です。農地の推移を見てみると、どの作物を栽培するかが重要ですが、ビール麦は価格が安く、小麦に移っているのが現状です。
 6年前に顕彰碑を建立して、JA東京あおばの顔として平成20年〜212,000uで、もう一度耕作を始め、種もみの収穫を得ました。ビール麦の栽培面積は1町歩(10,000u)近く確保しており、農地を提供してくれればさらに増産できるのですが。練馬区としても行政の立場から、農地を残す工夫をされています。

 ──多くの農家が意欲を持って生産して欲しいですね。
 榎本 金子翁の偉業を讃えるために作ったビールであり、麦の生産量が増えるとビールも増産出来ますが、少子化、後継者不足から従事する人が少なく、現在6軒の農家が生産しています。出資者を集い、自分たちで立ち上げる事ができればと期待し、その環境作りは私たちJA東京あおばの役割になるでしょう。

 ──時代の流れとして、地産地消が注目されていますが、練馬はいい環境を備えていますね。
 榎本 消費地に近い立地条件を生かして、お客様と直結した情報交換を密にし、遊び心を生かした麦作りが出来ればと考えています。今年は入梅が2週間も早かったので、今月刈り取り作業を行っています。乾燥は基本的に天日で乾燥させるのが良いのですが、干す場所がないので、廃校になった体育館をお借りして干しています。

 「営利より農地を残す」。これを大義として、行政との連携を図り、地域住民の理解を得ながら公共の資産を大切に守り、次の世代に引き継いでいくことが重要です。個人の利益を追うより、組合員全体の利益は公共性がありますから。

 ──ビールの生産、醸造は。
 榎本 国産初のビール麦・金子ゴールデンは東京生まれ。醸造もぜひ東京でという思いから、福生市にある蔵元・石川酒造さんにお願いし、快く引き受けて頂きました。日本酒の醸造元である石川酒造さんは、「多満自慢」などの日本酒や、地ビール「多摩の恵」を生産する老舗の蔵元。金子ゴールデンを使ったビール作りはもちろん初めてのこと。大変なご苦労をされたと思いますよ。見事に期待に応えてくれました。

 今回は330mlの瓶詰4,000本を生産し、59日に発売。初日の昼までには完売しました。1年に3回ほど醸造を行い、次回は5月末に仕込み、7月末〜8月上旬の発売を予定しています。今回入手されたお客様からは口コミで、「次を待ちかねる」と、心強いメッセージが届き、大きな力になっています。

 ──麦芽、ホップの入手は。
 中川大介さん 麦芽は練馬産、ホップは輸入品。現在のところ、ホップの国産化は難しいようですが、今後トライしていきたいですね。

 ──ラベルは金子丑五郎翁の顔写真ですね。
 榎本 国産初のビール麦を作った翁の偉業は、ずっと伝えていかなければなりません。ビール作りに情熱を傾けた人がいたことを、このラベルに込めているのです。さらに缶ではなく、ビンを使うことにも拘りました。かなり長時間保存したビールでも美味しく頂く事が出来ます。

 ──これからの都市農業のビジョンをお聞かせください。
 榎本 職業としての農業は大変ですが、趣味の心を生かして関心を持って、ビール麦や野菜作りにトライして頂く方が増えると嬉しいですね。練馬には全国的にも知名度の高い練馬大根やキャベツなど、美味しい野菜を沢山生産しています。6月と11月はキャベツの最盛期で、この時期には肉汁だけで、肉を入れていない野菜餃子が人気です。

 また練馬・金子ゴールデンビール麦を原料とした麦茶も香ばしくて好評を得ており、クッキーやパン作りにも用途を広げてみたいと思っております。
 都会での農業経営、目の前におられる消費者と密接な連携を保ちながら、今後の練馬での農業の在り方を研究し続けて行きたいと考えております。

──難問もあろうかと存じますが、これからの都市農業の発展に期待します。ありがとうございました。

聞き手=国土 敏明(ケイ・ワン・プロジェクト代表取締役)
撮 影=五頭 輝樹(MCS協同組合理事長)
(2011.6.6)